ひとりごと:住宅政策の「三つの景色」を眺めて
- show3管理者
- 3 日前
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更新日:1 日前
この仕事をしていて、こういうことを書くのは、正直少しためらいがあります。きっと「お前が言うな」と言われてしまうだろうな、と。
最近の税制改正や住宅金融の方針を眺めていると、業界に身を置く者としては、本来は追い風であるはずのニュースが続いています。
それでも、小さなトゲが刺さったような、妙な違和感がどうしても拭えません。
制度の内側にいるからこそ、ふと視線を上げたときに、少し歪んだ景色が見えてしまう。
今日はそのことを、三つの「景色」として書き留めてみたいと思います。
40平米という「器」の縮小
一つ目は、住宅ローン減税の面積要件が既存住宅についても50平米から40平米へ引き下げられたことです。
業界からの要望があったことも、建築費高騰の現実を考えれば理解はできます。
ただ、空き家が増え、人口が減り続けるこの国で、私たちはなぜ今も「より小さく作って売る」ことを、国を挙げて後押ししているのでしょうか。
正直言って助かるという街角のインタビューも見ました。しかし、仕方なく選んでいるのであり、可能であれば広い方が良いに決まっています。
海外の映像で目にする、ゆったりとした住空間での暮らし。かつてはそれを「豊かさ」と呼んでいたはずなのに、現実はその逆へ、逆へと進んでいるように見えます。
空き家を解体して敷地を広げる。隣の住戸を買い足して、ゆとりのある住まい方をする。
人口減少社会では、むしろ自然で合理的な選択のはずです。
それでも現実には、「敷地が小さい方が有利」「面積を広げると損になる」ようなルールが、静かにそれを思いとどまらせます。
「一人暮らしなら40平米で十分だろう」という効率重視の割り切りが、制度として固定化されていくことに、私はどうしても違和感を覚えてしまいます。

一億二千万円という「公助」の違和感
二つ目は、フラット35の融資限度額が8,000万円から1億2,000万円まで引き上げられ、しかも本来の金利水準より抑えるという話です。
1億円を超える住宅を購入できる層は、民間金融機関が十分に対応できるはずです。それでも政策金融がこの領域に踏み込む意味は、どこにあるのでしょうか。
試しに、1億円を基準金利の1.97%で、35年の返済期間として試算してみました。
月々の返済額は、
327,600円
です。
そのような金額に及ぶ住宅を購入できるのはほんの一部であり、相対的には富裕層と言えるでしょう。そこに税金を投入して金利を抑える意味がありますか?
まさか、そこで住宅需要の下支えを担っているつもりでしょうか。
そもそも、フラットを使おうかという選択肢になりますかね。何かズレている。
以前、住宅金融支援機構の方が冗談めかして「私たちは国の手先ですから、使われなくてもやるしかないんです」と話していたことが、妙に記憶に残っています。
制度の目的と、実際の使われ方。その間にあるズレを、現場自身が感じ取っているのではないか。そんな気がしてなりません。
終わらない「暫定」と、見えない再分配
三つ目は、住宅ローン減税そのものの在り方です。
恒久化されないまま、期限が来るたびに姿を変えて延長される制度。複雑さは増す一方で、所得が高い人ほど、高額な住宅を取得する人ほど、減税額も大きくなる。
税による所得の再分配機能に、真っ向から立ち向かう性格を持つ仕組みです。
省エネ要件が組み込まれてはいるものの、省エネ性能を持つ既存住宅が市場にどれほど流通しているかを考えると、効果的と言えるだろうか。
「ちゃんとやっているように見える」一方で、成果が検証されにくい。その構図に、私は強い違和感を覚えます。
税制調査会の会議室前廊下に並ぶ業界団体の要望の声。
それに応えて「検討します」と頷く政治家たち。
その間に、本当に住宅取得に苦しんでいる人たちの姿は、どれほど見えているのでしょうか。

では、どんな方向があり得るのか
もちろん、正解がある話ではありません。ただ、いくつかの「方向性」は考えられるのではないかと思っています。
たとえば、
新築を小さく作ることではなく、既存住宅をどう豊かに使うかを評価すること
敷地や住戸の面積を「小さいほど有利」にするのではなく、合理的な統合や拡張を後押しすること
住宅ローン減税も、金額の大きさではなく、その時の所得に応じて減税が逓減するような仕組みにできないか
引き渡し直後のリフォームによる省エネ性能向上を、売買分のローンも含めたローン減税の枠に載せる
そんな方向性です。
……こんなことを書けば、「仕事をする気があるのか」と叱られてしまうかもしれません。
それでも、毎日「暮らしの根源」としての住宅に触れているからこそ、このポリシーなき微調整の積み重ねは、来たる近未来の住宅ストックへの禍根になるのではと、ふと考えてしまうのです。
政治も、そして住宅業界も。
もう少しだけ、未来の日本人が「どう住みたいのか」という問いから、制度を組み立て直してもいい時期に来ているのではないでしょうか。





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