「長期優良住宅」という名の不条理 ―― なぜ中古マンションの税制優遇は“紙切れ1枚”で消滅するのか?
- 4月1日
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更新日:4月1日
国が掲げる「フラッグシップ」への期待と裏切り
2025年12月の税制大綱(2026年度税制改正)において、国は長期優良住宅や低炭素住宅をZEH水準を上回る「住宅の最高峰」として位置づけ、住宅ローン減税等の手厚い優遇を継続することを高らかに宣言しました。
これは、質の高いストックをきちんとメンテナンスし、日本の住宅全体のレベルを底上げしようという国の強い意志の表れであると解釈できます。

ちなみに、手続きや性能上の負担が大きくなるため、マンションでの認定住宅とは、ディベロッパーがかなりの力をかけて売り出す有名な開発であることが多く、東京オリンピック選手村跡地の「HARUMI FLAG SKY DUO」は、長期優良住宅と低炭素建築物認定の2つを取得として話題になっています。
しかし、その立派な理念の足元には、「新築時のことしか視野にない」という致命的な制度上の欠陥が見え隠れしています。一度中古住宅として市場に出た途端、この制度は「認定通知書」という紙切れ1枚がないだけで、すべてが水泡に帰すという理不尽な現実を抱えているのです。
立ちはだかる「紙切れ1枚」の絶望的な壁
注文住宅であれ分譲住宅であれ、認定住宅は国が認めた質の高い「良質なストック」であり、本来なら50年100年と堂々と住み継がれていくべきと期待されています。しかし、ここで「所有権の移転」が制度上まったく重要視されていないという大問題が発生しています。
もし、前の所有者(売主)が新築時に特定行政庁(都道府県や市など)から発行された「認定通知書」を紛失し、買主に引き継げなかった場合、どうなるのか。
家そのものの性能は何も変わっていないにもかかわらず、紙が1枚ないという事務的な理由だけで、長期優良住宅としての資格や税制優遇の権利は完全に消滅してしまうのです。

逃げ場のない「情報の三重苦」と裏ルートの不在
「書類がないなら再発行すればいい」と誰もが思います。
私たちの身近にある重要な書類について、通常は再発行が可能です。権利がある人に紛失再発行や補完するルートを残すのは当然の運用と思われますが、しかし、中古住宅の購入者はここで「情報の三重苦」というデッドエンドに追い込まれます。
第一の壁:デベロッパーの「門前払い」 分譲した会社に助けを求めても、「弊社が責任を負うのは最初の購入者(一次取得者)まで。中古で買われた方には対応しない」と冷たく突き放されます。

第ニの壁:特定行政庁の硬直した対応 認定を下した役所には、当然データや控えを残しています。しかし、東京都、区、他の政令指定都市に問い合わせても、答えは一律「認定通知書の再発行はしない」「認定計画実施者以外には開示できない」というものです。登記簿謄本で「自分が新しい所有者だ」と証明できても、門前払いを食らいます。

第三の壁:税務署の「例外なき厳格化」 税務署に確認しても、税制優遇を受けるためには建築士の証明書(認定長期優良住宅建築証明書など)に加え、必ず「認定通知書」が必要だと言われます。例外や裏ルートは一切存在しません。

中古市場で連鎖する「負のループ」と矛盾
この「情報の断絶」は、個人の不利益にとどまらず、さまざまな矛盾や悲劇を生み出しています。
チグハグな行政 新しく住み始めた人がいると分かったのなら、役所は「あなたは新しい所有者ですね。税制優遇も受けられるから、代わりに維持保全計画をちゃんと実行してね」とアドバイスするのが本来の役目のはずです。驚くべきことに、税制優遇に必要な通知書は見せないのに、メンテナンスの記録(維持保全計画書)なら開示するという曖昧な対応をとる自治体もあります。
不動産業界も気づけない「盲点」 役所がリストを公開していないため、売主が書類を紛失していると、不動産仲介業者もそれが「長期優良住宅等」であることに気づけません。結果、重要事項説明にも記載されず、売主は正当な評価(価格)を得られず、買主は減税枠を使い損ねます。
「省エネ基準」の逆転現象という罠 書類を失った瞬間に「ただの古い家」扱いされるため、現在の厳しい省エネ基準で再判定を迫られます。結果として、かつての最高ランクの住宅が最新基準(ZEHレベルなど)に届かず、優遇から転落するという所有者にとっての大損失が起きています。
「地位の承継」の自己矛盾 行政の公式ルールに、所有者が変わる際の「地位の承継」という手続きがありますが、これを行うためにも「当初の認定通知書の写し」が求められるという、鶏と卵のような理不尽なループが発生しています。
「ポーズ」だけの制度がもたらす国家レベルの損失
既存住宅でも認定住宅の優遇を受けられると「ポーズ」だけは取っていますが、実際には紙切れ1枚が引き継がれない限り、二度と認定住宅としての引き継ぎはできません。
住宅に込められた「魂」や、建物の実際の性能を無視し、書類の有無だけで良質な住宅ストックの蓄積を放棄することは、国家レベルでの「情報の損失」であり「資産価値の毀損」に他なりません。
今の制度は「新築を作ること」がゴールになっており、「長く使い続ける」「次の世代へバトンを渡す」ためのリレーがまったく考慮されていないのです。

提言:デジタル時代の「住み継がれる制度」へ
国が本気で「質の高いストックの維持」を掲げるのであれば、行政の仕組みとして以下のフォローを早急に整備することを提案します。
認定情報のオープンデータ化(リストの公表)全国の認定情報をまとめた「認定マンションリスト」を公表し、認定状況を検索できる仕組みを構築する。
不動産登記簿との連動(自動承継) 車に車検証があるように、住宅にも「性能の身分証明書」を登記とセットにできないか。所有権が移転した時点で、長期優良住宅としてのステータスも引き継がれる仕組みがあれば不動産会社も気がつきます。
承継の案内 「通知書の写しがないと承継できない」という現行の矛盾したプロセスを廃止する。登記簿による所有権確認を条件として、新所有者に対して長期優良住宅の優遇や制約を理解してもらったうえで、当人が引き継ぐ意思を表明した場合、認定ステータスを更新・確認できる柔軟な運用ルールを策定すべき。

「良い家を建てたのだから、次の世代までその価値を追い続ける」
紙切れ1枚に価値が左右される現状を打破し、そんな温かい制度設計へと転換することを、切に願います。
なお、令和2年の制度改正により、マンションの認定が棟単位でできるようになったため、以降の認定マンションは、管理組合で「認定通知書」の控えを管理できるようになっていますが、それでも根本的な解決にはなっていないと考えます。
本音を言ってしまうと、長期優良住宅じゃなくても「性能が高い」「質が高い」住宅はたくさんあります。
しかし問題は、行政がお墨付きを与えて優遇措置を講じておきながら、実際には引継ぎが難しい仕組みを作ってしまっていること。
それで、既存住宅も優遇していますよとポーズを取られても、何だかなあと思うのです。


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