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省エネ住宅は贅沢品?格差を広げる補助金の落とし穴

  • 執筆者の写真: show3管理者
    show3管理者
  • 6 日前
  • 読了時間: 7分


省エネキャンペーンの“最終年度”




ここ数年、住宅の省エネ性能向上を目的とした「省エネキャンペーン」や関連補助制度が数多く展開されてきました。中でも、「子育て●●支援事業」や「先進的窓リノベ事業」「給湯省エネ事業」など、複数の事業が2023年度から2025年度にかけて、時限的な支援策として最終年を迎えるはずです。

しかし、一部事業の申請件数は伸び悩み、執行率にも課題が残されています。

それにもかかわらず、制度の延長や拡充の議論は根強く、制度継続の必要性が、明確な根拠に基づいて説明されているとは言いがたいのが現状です。


このような状況を前提に、補助金の制度設計や対象者の実態について、もう一歩踏み込んで考えてみたいと思います。


大前提であるねらいは?


2050年のカーボンニュートラルの実現を図るという目標に向けて、補助金の下支えによって、先進的な断熱性能の住宅や建材の普及を目指していると読むことができます。


以下、子育てエコホームと子育てグリーン住宅の例です。


子育てエコホーム支援事業は、エネルギー価格などの物価高騰の影響を受けやすい子育て世帯・若者夫婦世帯による高い省エネ性能を有する新築住宅の取得や、住宅の省エネ改修等に対して支援することにより、子育て世帯・若者夫婦世帯等による省エネ投資の下支えを行い、2050年のカーボンニュートラルの実現を図る事業です。

子育てグリーン住宅支援事業は、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、新築住宅について、エネルギー価格などの物価高騰の影響を特に受けやすい子育て世帯などに対して、「ZEH基準の水準を大きく上回る省エネ住宅」の導入や、2030年度までの「新築住宅のZEH基準の水準の省エネルギー性能確保」の義務化に向けた裾野の広い支援を行うとともに、既存住宅について、省エネ改修等への支援を行う事業です。


すでに予定していた層への“ばら撒き”的効果



まずは、すでに高性能な住宅を求める予定の世帯が補助金を受け取るだけの構図になれば、「補助金による行動変容」は起きず、税金の使い道としての合理性は疑問です。こうしたケースは、表面的には制度活用が進んでいるように見えても、実態としては“ばら撒き”に近い効果しか持たない可能性があります。

例えば、ハウスメーカーを選んだために、標準仕様としてZEH以上の断熱性能が当たり前になっている場合や、もともと高断熱住宅を建てると志向していた場合は、補助金の効果によって何か行動が変わったとは言えません。




「裕福なその日暮らし」への絶大な効果



「裕福なその日暮らし」とは、経済的には恵まれていながらも、将来に備える蓄えや社会的な長期視点を持たず、その日その日を快適に過ごすことを重視するライフスタイルを指しています。

日本の家計の約10%を占め、非流動資産はあるが手元現金が乏しいため、現金給付に対する消費反応が大きいとの調査結果があります。


補助金は、このような層に対しては、かなり効果的でしょう。

このような世帯は、年収ベースでは中流~上流に位置しながらも、住宅関連資金を十分に用意するだけの貯蓄がないケースが多く、補助金が実質的に新築やリフォーム実現の“最後の一押し”として機能している側面もあります。そのため補助金が一定の行動変容を促していると評価する余地があります。

しかし、この「裕福なその日暮らし」層を動かすために補助金があるのでしょうか。




支援が届かない「温熱弱者」



近年は、住宅の断熱性向上とエネルギー削減を結び付けた政策が推進され、省エネリフォームや高性能住宅への補助制度が多数創設されています。ところが、その恩恵を受けているのは、住宅ローンを組める若年層や一定の資金余力のある世帯に偏っているのが現状です。


一方で、築古住宅に暮らす高齢者や低所得世帯、住宅に関心を持ちながらも行動に踏み出せない層に対しては、温熱環境の改善がなされないまま放置される状況が続いています。本来、エネルギー政策は社会全体の持続可能性を支えるべきものですが、「省エネ住宅=贅沢品」のような構図が生まれてしまっていることに懸念を覚えます。




制度理解の差が新たな格差を生む



制度設計の観点でも重要な問題があります。

行政側の立場では「制度は整備してあるので、あとは申請すればいい」という“機会の平等”という考え方があります。しかし、実際には制度を理解して適切に申請できる人と、そうでない人の間に大きな差があるのが現実です。


特に、高齢者やITに不慣れな層、読み解く力が弱い人々にとっては、制度を「使える」状態にはなっていません。結果的に、制度に精通している一部の“賢く立ち回れる人”だけが恩恵を受ける構図が生まれ、格差の再生産にもつながっていると考えられます。




制度運営のコストとその妥当性



加えて、最近目立つ「省エネリフォームキャンペーン」事業には、相当の事務コストがかけられており、補助金の“周辺”に多くの予算が投じられているのも事実です。


こうした事業が、単なる景気対策や業界支援にとどまらず、本当に省エネ効果や住宅の質の向上につながっているのかを検証することは、今後の制度設計において不可欠です。



たとえば、昨年度に国土交通省が実施した、「子育てエコホーム支援事業」では、総事業費2,500億円に対して、専用ウェブサイトの運営、申請受付、審査、相談対応、広報、コールセンター業務などを包括的に委託する「事務局業務」が、公募・入札で発注されています。

  • 令和5年度補正予算 :2,100億円

  • 令和6年度当初予算案:400億円


この予算規模に対して、

  • 令和6年度「子育てエコホーム支援事業」事務局業務:落札価格 約114億円(博報堂)

これは事業費全体の4%程度を占める規模であり、このようにして毎年1事業あたり100億円を超える公費が投じられているという事実は、一般にあまり知られていません。

もちろん、全国規模の問い合わせ対応やシステムの整備が必要な制度である以上、一定の費用がかかるのは当然ですが、「コストに見合った効果が本当にあったのか?」という検証が不可欠です。


あくまでも漏れ伝え聞いた噂話として、

これまでの電通系から博報堂にスイッチした。

同じような制度なのに毎年ゼロから短い納期でシステムを整備して、そりゃ経費もかかるよなと。


それで、100億円規模というのが妥当かどうか、全く見当がつかないものの、システムがポンコツだったことだけは確実。

5月に工事を完了し、申請したリフォームが、いつまでも音沙汰が無いまま、ようやく3月に交付決定された。

どうやらしばらく申請データが見られないまま放置されていたらしい。

他にもいくつもの申請が、3月に雪崩を打って交付決定が来たというのだから、これはもうやっつけで承認を始めたのか、急に効率が良くなったのか?


とにかく、事務局に対する不信感ありあり。

どうしてこの不満話が世の中に蔓延していないのだろうか?



社会に根づく省エネ住宅のために



補助金制度が社会にとって本当に意味のある仕組みとなるためには、次のような方向性が求められるのではないでしょうか:


  • 本当に必要な人へ届く制度設計(賃貸世帯、高齢者、単身低所得者層への支援強化)

  • 事務費・周知費を含むトータルコストの可視化と検証

  • 申請手続きの継続性強化に向けた支援

  • 補助を受けた住宅からのフィードバック



省エネ住宅を「意識の高い人のための贅沢品」で終わらないために、社会全体が享受できる仕組みへ。

今後、補助金制度がより多くの人に有効に使われるようになることを期待します。





追伸


ところで、所得の再分配機能と逆行することは確かであるものの、そもそも目的が違うとして整理をしないと余計な混乱をします。

所得の再分配は累進課税等に任せて、この補助制度は政策遂行のための潤滑油として考えた方が良いでしょう。



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