内窓狂想曲の顛末
先進的窓リノベはかつてない補助率と規模で、業界に衝撃を与えたようです。
既に断片的に言及しているものの、これまでの経緯を踏まえて、今後どのような制度が望ましいのか、考えてみたいと思います。
まず、先進的窓リノベの条件です。
およそ1年という期限
予算は1,000億円
補助は定額だが、製品によっては45%を超える補助率(これまでの制度はたいてい33%)
事業者登録により、申請手続きを事業者にお任せ
工事前手続きを省略し、工事完了後に報告
予算の消化状況を見ると、このまま推移すれば11月までは持ちそうな傾向が見られます。
政策的には、良かったじゃないかと評価されそうですよね。
でも、そんな簡単な問題ではないのです。
まずは参考として、非常に示唆に富む分析をしているサイトをご紹介します。
これらの記事も参考にさせていただきました。
(1)
予算規模や条件が適正であったか?
そもそも、期間に対して生産施工能力のキャパシティーをオーバーしているとの指摘あり。
既にいくつもの内窓に対する補助制度があるが、たいてい1/3の補助率であり、先進的窓リノベとの圧倒的な補助額の差で集中する状況を生んでしまっている。
正確な状況は分からないが、おそらく他の制度事務局は、閑古鳥が鳴いている。
(2)
予算超過の場合の終わらせ方を考えているか?
ついこの間、こども未来住宅支援事業で、住宅事業者が補てんせざるを得ないなどの大きな波紋を生んだにもかかわらず、抜本的な解決策を設けていない。
こども未来の次の制度としてこどもエコを繋いだに過ぎず、確実に数カ月後「こどもエコ」予算消化による問題が発生する。
このような事態に対してマニュアルでは、
先進的窓リノベ事業 共同事業実施規約
第5条(本補助金の申請ができない場合等の取り決め) 甲及び乙は、以下の(イ)~(ニ)に該当する各事由により、 本補助金の申請ができない、又は交付を受けられない等の場合における損失等をその責めの程度を勘案して負担するものとし、負担の範囲とその方法について、予め双方で取り決めを行わなければならない。
(イ)交付申請が正しく提出される以前に、本事業の予算が終了 したこと等により、交付申請期間が終了した場合
(ロ)~ (ニ)略
2 甲及び乙は、本補助金の申請ができない、又は交付を受けられないこととなった場合等には、前項の取り決めに従い、損失等の負担の範囲とその方法について、誠実に協議を行うものとする。
このような共同事業実施規約を提出させているが、これで何の解決になっているのですかと問いたい。
(3)
予算確約ができないまま工事後の申請という順番が適切か?
通常の補助制度は、申請手続きを先行し、審査後の交付決定を待ってからの契約を条件としていた。
しかし、それでは発注しようというマインドを高めたにも関わらず、長期間の審査待ちという状況が続くという補助ありきの不自然な工程となるため、工事完了後の一回申請で完了させてしまう、工事先行方式が採用され始めていて先進的窓リノベもこのタイプ。
その結果として、消費者の支払額が未確定なまま工事を進めざるを得ないという状況が生じている。
(4)
補助金の清算手続きについて影響を考慮しているか?
先進的窓リノベのマニュアルによると、
還元方法は原則①(工事代金の一部に充当)とします。
とあります。
では②はどのような場合かというと、
P8
■還元方法②の選択について
以下のような事情がある場合、 還元方法②を選択することができます。
≪還元方法②が選択可能な事情例≫
補助金が交付された時点において契約に係る代金が精算済みであり、①の債務に充当できないことが 見込まれる場合
ローンの申込金額から補助金相当分を除外できない場合(金融機関が残金を一括決済する 等) ・再開発組合が工事請負契約を締結する 等
先進的窓リノベ事業 共同事業実施規約
第4条(本補助金の支払と還元)
・・・
② 現金で支払う方法(ただし、本請負契約に係る代金が精算済みであり、乙の甲に対する債務に充当できないことが見込まれる場合に限る。)
と、このような制度の建て付けに対して、当たり前のように某メーカーや施工会社より商慣行だからと②を選択する状況を目の当たりにしている。
そうなると、いったん消費者は工事金額を全額支払わなくてはならず、またその後の補助額の振り込みがあって、行ったり来たりという状況が生まれる。
逆に施工側の事情を推察すると、一件当たり20万円を超える未収金が発生し、補助金の交付が数か月後になってしまう可能性が高く、経営規模の小さい施工会社は、受注するほど資金繰りが逼迫する。
それどころか、予算消化により補助を受けられないとなれば、施主から補助見込み分を請求するというのは、非常に困難な状況と予想される。
上記課題についての処方箋
(1)について
予算が多すぎるという不満ではないが、結局注文の殺到による生産現場の混乱を招いたことは間違いない。
2大メーカーの生産能力を確認した上での予算規模を考慮する必要があり、また今後の政策見通しを伝えることにより、多少なりとも駆け込み需要を緩和することができたのではないか。
他の補助制度との調整ができておらず、補助の差額が大きいことも、需要が殺到した原因となっている。
むしろ順番としては、従来の手続きが煩雑な補助制度こそ、手間がかかるからこそ補助率を手厚くするというのが納得がしやすいのではないか。
少し補助率を落として未消化を前提とした制度設計を行い、できれば2カ年の補助期間として、1年経過後は、新たな予算措置をしていけば、枯渇をなるべく起こさないことが期待できる。
要するに、簡便性とメリットの組み合わせの変化が今回極端過ぎたということではないか。
(2)について
予算枯渇時に誰がどのように負担するかというのを現場任せにしているのが、先送りスキームの課題。
ニーズと条件のバランスが悪いとこういった調整を余儀なくされる。また、予算消化を実績とする各省庁や事業による予算枠の奪い合いが、未消化を悪とする方向に働いている。
予算を潤沢に集めるというのが無理な話であれば、 期間途中の予算消化見込みによって率を変えていく方法はとれないものか。
募集期間を区切った予算配分の工夫は、既に他の制度で実施されている。
補助を希望しても時期によって〇〇万円もらえるかもらえないか、100%と0%で雲泥の差というのが、早いもの勝ちで抽選もしない。公的な機関によるバラマキとして適切なのかどうか。
新築のZEHで100万円というのが、こどもエコではインパクトがあるが、ある程度の高額まで補助をする場合は、利便性よりも一定の申請手続きを先行させて、契約時にはきちんと補助額が確定されている状況が望ましいのではないか。
(3)について
工事後の一回申請のみというのは、現場の負担が少ないというメリットがあるが、逆に予算確保がされない不安を抱いたまま、伸びてしまった納期の間不安な日々を過ごさせるという、デメリットが大変大きい。
いくら、申請の簡略化とはいえ、省略しすぎの方向に少し振れすぎており、予算確保の手続きを挿むのが適切ではないか。
その点、東京都のウェブによる見積書のみで予約を受け付ける登録手続きが参考になる。
(4)について
補助金によるリフォームというのは、需要喚起の意味が強く、本来であればやらないであろう層に対して、予算的なハードルを下げて実施を促すということに意味がある。
いったんは工事額の全額の支払いをしなければならないとなれば、利用者は自然と貯蓄の余裕がある高所得者層に限定される傾向になる。
補助分は、施主に負担させず施工側で吸収するようにとの「交付申請の手引き」の原則に従うならば、メーカーを中心とした施工店救済策や補助金の早期交付を徹底する必要がある。
工事実施から支払い、補助金交付までのタイムラグを埋める資金手当てができるのであれば、非常に有効な潤滑油となり、制度を効果的に機能させるものである。
さらに言うならば、利益を産む可能性のある運用先となるのではないか。
以上、長々とした記述で、ご負担をおかけしました。
どこかで関係者の参考になれば幸いです。
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